数百年前からこんこんとわき出ていたとされる箱根町木賀の「嬰寿(えいじゅ)の命水(めいすい)」が、突然枯れた。枯渇の影響は生活用水に使っていた地元だけにとどまらない。「日本の隠れた名水」で子宝、安産のご利益もあるとして全国からも命水を求めてくみに来る人たちが絶えなかった。「命水使用」の看板を掲げる都内の飲食店では死活問題になっている。
地元の伝承よると、嬰寿の命水は箱根外輪山に染み込んだ雨水がわき出たものとされ、最近まで水道の蛇口を全開した程度の水が絶えずわき出ていたという。
ところが、今月十日朝、近くの自宅に命水をパイプで引いている内田実さん(60)が、異変に気付いた。「水が出ない」。内田さん方では六十年以上、使い続けているが、「こんなことは初めて」と頭を抱えた。
地元の和菓子店「箱根花詩(はなことば)」は店先に湧出(ゆうしゅつ)所を設け、この水を求めにきた人たちに自由にくみ取らせていた。同店でも創業以来八十七年間、命水使用のあんこやかき氷が自慢だったが、社長の瀬戸美和子さんは「もう同じ味が出せない」と嘆く。子宝、安産の「霊水」としても知られ、二十代に子宮がんを患った瀬戸さんは命水を飲み続けて克服。二人の子どもを授かった。
まろやかな味わいや霊水の効用を求めて県外からペットボトル片手に訪れるファンも多く、断水から十九日までに四百人以上が遠くは神戸から足を運び「肩を落として帰った」(瀬戸さん)という。
東京都墨田区の老舗そば店「業平(なりひら)屋」も約二十年前から月一回、二トントラックで命水をくみに来る常連。命水使用のめんつゆはだしの出がよく、これまで多くの雑誌、テレビで紹介され辛口の料理評論家をうならせてきた。命水が途絶えたことを知った店主の茂木徹夫さん(59)は「頭が真っ白で足が震えている」。
突然の枯渇について、地元住民は「マンション建設などによる地盤破壊が原因では」と推測。
県温泉地学研究所(小田原市入生田)の研究員・板寺一洋さんは「工事の影響や地震などによる地層の変形によって水脈が絶たれる場合や、雨水浸透量の低下や大量のくみ上げによる水位の低下などが一般的に考えられる」と話している。
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